うめAUDIO(仮称)


真空管アンプ[SINK]コラム02


 


 

 

組み立て後の各電位チェック

[2014/08/03]

 部品の実装が終わって、いきなり電源を入れるのは危険ですのでまずはテスターを用いて短絡のチェックや電位のチェックを行っておいたほうが賢明です。まずはOPAMPや真空管を接続しない状態で以下のチェックをしていきましょう。

(1)各コンデンサの+と−がショートしていませんか?? ショートしていた場合どこがショートしているのか探しにくいのでコンデンサ1つを装着するごとにチェックするのが結果的に近道となります。

[2014/08/12追記]
(1.5)短絡していないかの確認はDCDCコンバーターについてもしっかり確認しておきましょう。ルーペなどを使って目視チェック+テスターで導通確認をしておきます。(ブザーではなく抵抗レンジ推奨) 隣接ピン同士がくっついてしまっていませんか? DCDC U31,U41ともに隣のピンと信号が共通であるところはありません。数Ω以下しか抵抗がないような状況はありませんので、もしそうなってしまっていたらショート(ブリッジ)していますから吸い取り線で余計な半田を吸い取る、やり直すなどして下さい。特にU41のほうはショートさせたままの状態で電源を投入すると簡単に壊れてしまいます。

(2)電池はきちんと接続されていますか?片側の電池ボックス+極が+Vに、−極がGNDに、もう片方の電池ボックス+極がGNDに、−極が-Vにきちんと接続されているか目視と導通チェックにて確認しておきます。(画像の緑マーク内) GNDを基準に+Vと-Vがそれぞれ電池2本分の電圧で正負の電位になっていますか?

(3)しっかり(1)〜(2)を確認した上で電源スイッチをONにします。異常発熱している部品や煙を噴いている部品が無いかまずは観察。問題がないようならGNDを基準に各電圧をチェックしていきましょう。OPAMPの+Vと-V、それぞれ+2.5V前後と-2.5V前後になっていますか?

(4)次にDCDCコンバーターによって昇圧と降圧されて電圧を作っている部分をチェックします。今まではGNDを基準としていましたが真空管周辺の電圧は電池の-V側を基準としていますのでテスターリードの黒のほうをここからは-Vtにあてて測ります。tubeの-Vという意味で-Vtと表記されています。VH(ヒーター電圧)を測ります、+1.45V前後が出ていますか?(真空管に接続されて電流を消費すると1.25V付近まで下がります。真空管によります) U41はとても壊れやすい素子ですので短絡には気をつけて下さい。各部チェックしてみてもVHが0Vのままであったり入力電圧の+5Vがそのまま出てしまっている場合はU41が死亡している可能性があります。
 チェックポイントは特に設けていませんがついでに真空管に接続される端子の電圧も確かめておきましょう。+FとKの電位差が同じく+1.45V付近になっていますか? 左右それぞれチェックしておきましょう。+Fというのはフィラメントを示します。傍熱管と直熱管で呼び名が違いますがヒーター=フィラメントという認識でおおよそ大丈夫です。Kはカソード、単語スペル的にはCなんですがコンデンサのCと混同するためKなんだとか?

(5)次は昇圧側、-Vtを基準に+Vtを測ります。+25.5V前後の電圧が出ていますか?これも左右それぞれチェックしておきましょう。+30V付近だったり+10V未満の電圧だったりした場合はU31の足がブリッジしてしまっていたりオープンになってしまっていると思いますので電源を切ってから目視とテスターで確認し、修正して下さい。低い電圧が出るケースではR31, R32の半田ミスや実装忘れといった事例もあります。

[2014/08/09追記]
(5.5)前項の(1)で各コンデンサの短絡チェックをしていますが念のためここでC2/12が短絡してしまっていないかチェックを推奨します。ここが短絡しているとOPAMPを刺して電源を投入した際、±2.5V駆動のOPAMPに対して+16V付近の電圧がそのままOPAMPの入力にかかってしまい、OPAMPが飛びます(死亡します)。接触不良を起こしてもショートしても危険なポイントです。ここは入念にチェックしておきましょう。

(6)ここまで問題が無いようであれば、一度電源を切ってからOPAMPと真空管を方向に間違いないか確認しつつ差し込みます。

(7)電源を入れ、異常高温になっている部品がないか、煙を噴いていないか確認します。GNDを基準にOPAMPの+Vと-Vの電圧を再度確認しておきます。同様に真空管側も-Vtを基準にVHと+Vtが正常な電圧であることを再度確認しておきます

(8)最後に出力オフセット電圧を測っておきます。基準はGNDです。R9/19の上側が出力のポイントとなり、L, R それぞれチェックポイントのシルク印刷があります。低オフセットのOPAMPであれば±1mV以内、オフセットのやや大きめのOPAMPでも±10mV以内に収まっているはずです。

(9)少し時間をおいて様子を見ます。各部の電圧が妙な値に変化してしまっていないかじっくり確認します。問題がないようであればライン入力に再生機器を(VRに近い側が入力ですよ)、イヤホン・ヘッドホン出力に100均などで買ってきた安物のイヤホンを繋いで音が出る事を確認して下さい。暫く再生してみて大丈夫そうであれば、本命のイヤホン・ヘッドホンに繋いで音を楽しんで下さい。


チェックポイントは四角の四隅が描かれているような照準な感じのシルク印刷です。


 

 

回路構成の解説

[2014/08/05]

 最初にお断りしておきますが、Bispaさんの販売サイト及びこちらのコラムにて回路図の全貌や全パーツについての部品表、基板パターンの詳細といったものは掲載の予定がありません。KITおよび基板単体をご購入の方にはBispaさんのほうで用意された説明書がつきますので必要最低限の回路図と部品表に関してはそちらをご覧下さい。こればかりはご購入頂いた方の特権となります。
 個人的な制作物・委託品であれば全てを載せてしまっても良いのですが原則的にSINKはBispa製品であるということをご了承頂きたく、宜しくお願い致します。
 そこに載っていない部分的な回路図や具体的な部品定数などについては、断片的には紹介を予定しています。切り貼りしていくと全貌に近づくかも??

 リバースエンジニアリング禁止!とまでは申しませんがパターンを解析した結果のSINK回路図を公開、または再利用して商用・二次配布することは遠慮頂きますようお願いいたします。

(1)構成概略
 付属します説明書にブロック図が載っていますが、補足する形で説明いたします。前段の電圧増幅段に真空管を配置し、動作基準電圧が上下にシフトしていることから入力カップリングと、OPAMPに繋がる中間位置にカップリングコンデンサを真空管の前後に配置しています。後段のOPAMPはインピーダンス変換の役目と電流増幅のバッファの役割を持っています。
 OPAMPはGND電位を基準とした正負電源となっているため出力カップリングのない(Output Coupling Less = OCL)構成で、巨大なコンデンサを信号に直列に入れることなくクリアな音作りを可能としました。※大容量の出力カップリングを通ることでよりウォームな真空管らしいサウンドの音作りをしているアンプとは目指す方向が違うということでもあります。そういった構成も悪くはありません。使い分けで共存させていきましょう。

 OPAMPに供給される正負の電源は2本ずつの電池から軽微なフィルターのみ経由されてそのまま接続されており電力効率を重視した形となっています。真空管はプレートおよびスクリーングリッドに高めの電圧をかける必要があり、これをDCDCコンバーター[U31]による昇圧で作っています。この昇圧はOPAMPに供給される正負電源の+Vから-Vまでの電池4本分から作っており、真空管全体で動作電圧の基準が負側にシフトしています。
 真空管を動作させるためにはもう1系統、ヒーター(フィラメント)電圧が必要であり、本機では1.25V(仕様上+1.0V〜+1.5Vが定格)となっている真空管を対象としているため前出の昇圧と同様に電池両端から降圧して電圧を生成しています[U41]。低電圧ですが電流を多めに消費(特に5676や1AD4)するためノイズ源となり、大きめのRCフィルター+LCフィルターによってノイズを削っています。削られると電圧がそのぶん下がりますので降圧DCDCでは無負荷では+1.45V付近の電圧を生成し、真空管に接続され動作している状態で1.25V前後の範囲となるよう調整しています。

(2)大きい面積を占めるノイズフィルター
 基板下部(電池ボックスに近い側)にある大きめのコンデンサとコイル群、実は前述の昇圧DCDCと降圧DCDCが盛大に吐くノイズを無くすためのフィルター回路で、結構ガチガチに組んであります。DCDCコンバーターは仕組み上必ずノイズが出るわけですが電圧を作り出した出力側(二次側と言います)に乗るノイズ以外に、電力源となる側(一次側と言います)にもノイズを撒き散らすのがかなりのくせ者です。一次側にはそのまま接続されたOPAMPがありますからね。
 フィルターの基本は「抵抗とコンデンサで構成されるRCフィルター」と、「コイルと抵抗で構成されるLCフィルター」から成ります。本機では両方を電圧と電流に応じた形で多段階に入れてあり、よほど低インピーダンスで感度の高いイヤホンでない限りホワイトノイズが目立たない程度にまで抑え込んでいます。高域のノイズに関してはフェライトビーズがかなり有効であり、本機全体で10カ所以上も使われています。

 ノイズフィルターの要としてはやはりRCとLCの「C」であり大容量のコンデンサが大きな働きをします。低ESRであればあるほど良いようにも考えがちですが固体コンデンサや高分子コンデンサのような「超低ESR」に分類されるコンデンサでは共振・発振の原因となってしまう事があり、適度に低ESRであるコンデンサのチョイスが肝となってきます。KIT付属の部品群はそのあたりを考慮し、オーディオアナライザやオシロスコープによって繰り返し計測した結果の最適解である部品が選定されていますから無闇に変えても多くの場合悪化する結果となります。コラムの別項目に交換可能としておくべき/交換しないほうがよい部品の紹介をしていますがDCDC前後のフィルターはほぼ後者に該当し、変えないのがきっと最善です。容量も大きくしたくなりますが、基本的にコンデンサは容量が大きくなるとESRも大きくなりノイズ除去の能力は比例してくれません。ケースに入るサイズの制約もありますが容量面でもKIT標準となっている部品のスペックあたりまでが有効な範囲かと思います。(ケースを自作して高さの制限を突破してでも大きいのを載せたい!という場合は裏面に補助のランドを用意しているので並列となるように小容量のチップタンタルコンデンサやチップフィルムコンデンサ、チップマイカコンデンサを載せてみて下さい。そういう特殊用途のためのリザーブです)

(3)5極管の制御
 5676などの3極管と5678などの5極管の違いは制御用グリッドが2つ多いのが5極管です。そのうち1つはK(カソード)と同電位に内部で結線されていますから実質は1つだけ、G2(スクリーングリッド)が増えているピンということとなります。詳しくは3極管と5極管について解説をしているWEBページが色々ありますので検索して調べて頂くとして、私なりの雑な理解を簡潔にまとめますと「3極管ではP(プレート)のみでK(カソード)から電荷の放出をコントロールしていたのをG2(スクリーングリッド)による加速でブーストしてより高効率に増幅を行っている」という感じです。
 このG2は固定抵抗を介して直接Pに接続するウルトラリニア接続(3管接続)※このあたりは目下勉強中でして間違った認識・記述がありました場合はご指摘下さいという方式もあり、この方式を採用しているポータブル真空管アンプもいくつかあるようです。対象の真空管を1品種に絞ってやればそれがきっと楽で安定している方式なのですが本機では多種多様な真空管にも対応しよう!ということで個別にコントロールをしています。具体的にはP電位を決めるR5/15とG2電位を決めるR6/16の抵抗値で個別にコントロールを行う形になっています。ですから使う真空管の種類が変わってくるとこの2カ所×左右の抵抗は抵抗値を変更してやってはじめて性能を発揮するということになります。

 ここでネックとなるのがP電位とG2電位ですが、真空管を普通の定格(数十Vであったり100V以上であったり)で使用する際にはP>G2という大小関係が成り立つように使うのが定石です。これはG2の部位自体が小さく、熱損失の許容値が低いので定格上P電位の最大値よりも低い定格がG2に設定されている事が多いようです。
 しかしハイブリッド方式のいわゆるYAHAと呼ばれる系統の低電圧駆動方式の回路ではせいぜい20Vまでの範囲でP電位とG2電位を制御する形です(無闇に電圧を上げても性能が出ない不思議構成)。この場合、G2>Pのような電圧の大小関係になっても大丈夫なのか?という問題が出てきます。困った事に真空管の種類によってはG2電位を高めに振ってやったほうが性能数値が良いものがあったりしまして定数決定の際には悩みに悩んでいるところだったりします。真空管に慣れ親しんだ方から「P>G2で使うのが当たり前だろう!」とご指摘頂く事も想定して今のところそういった大小関係となる定数のKIT及び完成品は出していませんが、このコラムではそういったイレギュラーな設定なものも紹介する・・・かも。

(4)低電圧駆動のOPAMP
 UME-AUDIOを以前からご覧頂いている方は「あんたいつも電圧は正義!とか言って±12Vとかしてるじゃん」と言いたいところだと思います。これは今までの私流の方向性でしたが、Bispaさんから本機開発の打診を頂いた際に低電圧駆動OPAMPの使用という指定となりました。正直なところ内心「えー」と思ったのですがBispa製アンプの多くが電池4本仕様にて昇圧などを行わずそのまま使用する流儀について解説して頂いた後、私は「電圧は正義!」とあんまり言えない体になってしまいました。低電圧のOPAMPは近年多く開発されており、ローノイズ化はもちろんの事ですが出力電流が多く取れるものが多くラインナップされています。動作電圧の高いものにも高出力のOPAMPがいくつか存在しますが、定格どおりの電流が出せるのかというとなかなかその通りには出ない、という事なのです。昇圧して電圧を稼いだところでそれに見合う高S/N比と低歪率が実現出来るのは、そこそこ無尽蔵に電力を消費できる据え置きの世界での話になるという感じでしょうか、ポータブルなら低電圧駆動のOPAMPを使うべきという考え方に徐々にシフトしつつある筆者です。

 筆者が個人的に他の真空管アンプKITを魔改造し、各系統を独立したDCDCで構成しOPAMP段まで昇圧したものが存在していますがエネループプロ単3×4で4時間半しか駆動できないという事実から差し引きましてもSINKではOPAMPを低電圧駆動とすることで稼働時間も延び、電流も多く吐き出せるより良いものである事は確実です。本機のOPAMP駆動電圧を昇圧を挟む形での魔改造〜というのはそんな難しくなく実現が出来ると思いますけど、あんまり意味がありませんという事を付け加えておきます。利点は昔からの定番品種が乗るようになるだけですね。(意味がない、やめとけ、と言いつつ自分でいずれやりそうな筆者。まぁネタとしてね)

 難点はただ1つ、低電圧で電流の稼げるお勧めOPAMPは秋葉原や日本橋店頭に置いているところが滅多に無いどころか通販でもあんまり無いというところです。Bispaさんにはその点、豊富なラインナップがありますので一応問題は無いのですが。一部の特殊なものを除いてBispaさんで低電圧OPAMPに分類されているものの多くがSINKに使用できます。全部じゃないので注意ですけども、そのへんは別コラムで後日。


 

 

 

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